24/7/31掲載

人が「居る」ランドスケープ資産

no.1-11「矢倉緑地公園」

潮だまりを内包する荒磯護岸や河口干潟と、常緑樹主体の森との組み合わせが、潮位上昇時代に水とともに暮らすための、あるべき沿岸の姿を先駆的に示している。

村上 修一 / 滋賀県立大学

矢倉緑地公園は、大阪湾に面し、淀川と神崎川の両河口にはさまれた、大阪市の風致公園である。花崗岩積みの荒磯親水護岸には、導管で海や河口とつながった潮だまりが設えられ、水生生物の観察ができるようになっている。盛り土の緑地には海岸性の樹木を中心とした植栽がなされ、荒磯では随所にアクセントとなる立石が配されるなど、こだわりの石組技術が見られる。
江戸時代に新田開発が進んだ河口の土地であったが、その後都市化の進んだ大阪市の中で自然景観の残った土地であった。当初は環境事業団の「大気汚染対策緑地の建設譲渡事業」により整備が進められ、2000年に完成、大阪市に譲渡され都市公園として開園した。市街地から離れた立地であるにもかかわらず、散策、サイクリング、眺望などに訪れる人が絶えないほか、地元団体による野鳥や水生生物の観察会が行われるなど、市民にとって親水活動の拠点となっている。

潮だまりを内包する荒磯護岸や河口干潟と、常緑樹主体の森との組み合わせが、潮位上昇時代に水とともに暮らすための、あるべき沿岸の姿を先駆的に示しているという点で価値がある。

田中幸一(2001年)事例紹介 大阪市 矢倉緑地の整備の概要について:公園緑地Vol.61:P.45-47
村上修一(2023)ソーシャル・メディアを用いた都市型水辺の行動把握-大阪市沿岸部におけるInstagram投稿の調査:都市計画報告集No.22-1:P.117-121