24/6/30掲載

人が「愛でる」ランドスケープ資産

no.2-9「兵庫県南あわじ市 沼島」

防風のために石を斜めに入れて堅固な構造とした石積み防壁や、漁師の重し石として使われる石錘のように、漁村集落ならではの結晶片岩の特徴的な利用、緑色片岩を活用した庭石や片岩の特徴を活かした石階段などの存在が一体となって沼島固有の景観を構成している。

嶽山洋志 / 兵庫県立大学

上立神岩、屏風岩、あみだバエなどの奇岩や海食崖に加え、階段や石垣など石を用いた生活景観が今もなお残る島。
島の地質と岩石の分布との関係をみると、緑色片岩は島の北部に多く存在しているが、この岩石が使用されている例として弁財天神社の石垣が挙げられ、集落の北部にはこの緑色片岩が混在した石積みを多く見ることができる。一方、集落の南部の石積みとして、例えば沼島八幡神社の石垣をみると、主に黒色千枚岩で構成されていることが多い。このように緑色片岩を有する石積みは、その岩石が採取されるエリアに近い北部の集落に多く見られるといった特徴が確認できる。
地質学的価値の高い「さや状褶曲」や、国生み神話の舞台の1つとされ、沼島のシンボルである奇岩「上立神岩」、その他、屏風岩やあみだバエなどの奇岩や海食崖も豊富に存在する。石階段、建物の基礎、石積み防壁など、生活の中で片岩の特徴を活かした景観がみられる。

南あわじ市沼島は三波川変成帯に位置し、結晶片岩である緑色片岩や、紅れん石片岩、石英片岩などが多く産出される島である。兵庫県でこのような特徴を持つ地域は沼島のみである。

① 石塚昇路・嶽山洋志・美濃伸之(2019)南あわじ市沼島における人の暮らしと岩石資源の関係について:ランドスケープ研究82(5), 547-550.
② 前川寛和・井ロ博夫・榎本哲二(2001)兵庫県南端部, 沼島に分布する三波川変成岩類から発見されたさや状褶曲:地質学雑誌107(3), V-VI.