23/8/31掲載

人が「営む」ランドスケープ資産

no.3-11「猪名川上流域の台場クヌギ林」

クヌギは、古くから里山林で薪炭材などに利用されてきた樹種の一つである。多くの薪炭林では地際で樹幹が伐られ、その切株から萌芽した枝・幹の育成と伐採が繰り返されてきた。一方、幹の高い位置で伐採して萌芽させる技法を台伐りと呼び、台仕立てのクヌギは「台場クヌギ」と呼ばれている。台場クヌギの分布は兵庫県と大阪府の府県境に位置する猪名川上流域のほか、京都府、滋賀県、山梨県に限られ、現在も維持管理された樹林が残っているのは猪名川上流域のみである。このため、当地域は生きた里山林景観を見ることができる数少ない貴重な場所となっている。

上田萌子 / 大阪公立大学

当地域の台場クヌギ林では、地域固有の伝統的な里山林管理が現在も行われている。毎年伐採する林分を変えながら、8~10年周期で萌芽枝の伐採が行われる。このため、古くからの輪伐によるパッチワーク景観を今に残している。当地域では、茶道に使用する高級炭「菊炭(一庫炭、池田炭とも呼ばれる)」の原料として台場クヌギが利用されており、古文書による記録からその歴史は400年近く遡ることができると考えられている。希少性や歴史・文化性を有することから、兵庫県川西市では台場クヌギ林2ヶ所が市の天然記念物に指定されている。台場クヌギの樹幹から流れる樹液にはオオクワガタやオオムラサキが集まり、クヌギの葉にはオオミドリシジミやウラナミアカシジミが生息するなど、生物多様性の豊かさでも高く評価されている。

古文書・古書籍による実証性、歴史性、茶道との結びつきによる文化性、現在も里山林景観が見られるという稀少性、台場クヌギという他の地域には見られない特殊性、大都会から1時間程度で見ることができるという利便性、生物多様性などを総合的に評価すると、当地域の台場クヌギ林は日本一の里山といっても過言ではない。

上田萌子・義本琢磨(2023):大阪府能勢町における台場クヌギ林の存在状況:ランドスケープ研究 86 (5), 471-474
服部 保・南山典子・上田萌子・澤田佳宏(2021):クヌギの基礎情報と台場クヌギの成因:兵庫自然研究会報告7, 33-48
服部 保・林 義浩・遠矢良宣・信田修次(2015):猪名川上流域の里山(台場クヌギ)について:森林科学74, 26-27
服部保・南山典子・松村俊和(2005):猪名川上流域の池田炭と里山林の歴史:植生学会誌 22 (1), 41-51