個人的に当地の世界農業遺産申請と維持活動に関わらせていただき、地元から多くのことを学ばせていただきました。現在でも生業として成立している当地の地域産業が地域生態系を支えていることが明瞭な稀有な地域に、是非みなさんもおこしになり、関係人口の一人としてこのランドスケープを堪能していただきたいと切に願います。
原 祐二 / 和歌山大学
「一目30万本」と謳われる山間傾斜地にある斜面梅林。遠く太平洋まで見通せる伝統的「梅システム」のモデルとなる絶景が広がる。
江戸時代初期より、当時経済の中心であった米作に不向きな礫質土壌の斜面地を最大限活用して梅の栽培を行うとともに、尾根部にはウバメガシをはじめとした紀州備長炭の原料となる広葉樹雑木林を残し、集水域全体の水・物質循環の持続性を担保してきた。また、花粉媒介者として古くからニホンミツバチを積極的に育成飼育し、一方でニホンミツバチも早春の貴重な蜜源として梅林を利用してきた。
2015年12月には、「みなべ・田辺の梅システム」として世界農業遺産に認定された。隣接する造成パイロットファームと農業とランドスケープの持続性のバランスをとりつつ、進化し続ける伝統的梅林のフラッグシップモデルとなっている。
しばしば伝統農家と新規来訪者の対立として語られることも多い世界の自然資源管理の中にあって、戦後早期から観梅客を積極的に受け入れることで農閑期の副収入を創出し、関係人口も築き上げてきた持続可能な人々のネットワークモデルとしても注目される。
尾根の薪炭林、斜面の梅林、谷底にかけての集落、それらをつなぐニホンミツバチや地域内外の人々、それらの連なりがはるか太平洋まで見通せるランドスケープの中に進化しながらいきづいている、世界でも屈指の農業遺産といえる。