北木島の丁場と丁場湖には、この小さな離島の花崗岩と石切り技術が、日本銀行本店や日本橋、大阪市中央公会堂など数々の近代建築や、靖国神社大鳥居の建造を支えた歴史が刻まれている。展望台からの丁場の景観も必見。丁場の長い歴史と職人の高度な技術が感じられよう。
坂本安輝子 / 造園学会員(民間・研究部会員)
ほぼ全島が花崗岩からなる北木島(面積約7.5㎢)には、かつて多数の丁場(採石場)が存在した。長期に深く採石した結果、高低差約100mの断崖も生まれ、花崗岩の丁場および跡地に雨水がたまった丁場湖が峡谷のような景観を呈している。
採石は明治時代、墓石や建築用材などを目的に本格化した。雑石の需要増もあり多い時は127か所の丁場が稼働したが(1957年)、需要減と高コスト化、安価な原石の輸入などから衰退し、2020年現在は2か所である。採石業の衰退に加え、石材加工業の廃業や本土移転も進んでいる。近年では、稼働中の丁場に展望台の設置(2017年)、“石の島”としての日本遺産認定(2019年)など、採石の歴史と技術に光を当てて観光に生かす動きがある。
丁場や跡地は、花崗岩が露出する自然の峡谷のようにも見える。人が高い技術で長期に手を加えた結果の、意図せずできた傑出した景観である。