「汐入り」庭園として有名ですが、引き入れた海水や海岸沿いであるが故に生じる潮風の影響により植栽樹種や空間構成に大きな制約が生じます。その制約の中で、園主および関係者の御尽力により、現在の空間構成が結実しているといえます。汐入り庭園といえば、浜離宮恩賜庭園が有名ですが、実はこちらこそ本家本元、是非和歌山市来訪の際は足を運ばれることを祈念しております。
原 祐二 / 和歌山大学
紀州藩第10代藩主徳川治寶によって、文政元年(1818年)から文政9年(1826年)にかけて造営された。荒廃が進んでいた中、1933年に現園主筋に売却され、戦中の荒廃、戦後の農地解放による土地供出の混乱を乗り越え、台風被害や借景の一部であった天神山の切り崩しなど変容も経て、1989年に名勝に指定された。
大名庭園としては全国で唯一の個人所有の庭園であり、それゆえ園主の方の高い志により維持されてきた側面もある。また、当地および周辺地域は市街化区域に位置しており、周辺の宅地化は免れない定めであった。風致地区指定の影響もあり、最低限の借景は担保されてきたが、私有地であるが故に時代背景が強く影響する中で、景観バランスの維持が課題である。
園主の方の御厚意により、当地における現地調査が和歌山大学の「環境緑化法」の授業として実施された。調査で得られた情報は和歌山大学学術リポジトリにて公開されている。
和歌山湾から海水を引き込んだ日本で最初の「汐入り」の池を有し、直線的な橋を基軸に背後の山々を借景とした独特の視点場構造を持つ独創的な大名庭園である。