22/2/25掲載

実務家が見出すランドスケープ資産

no.8「新緑の若草山・春日山・御蓋山」

平城京遷都から1300年の時を経て、若草山、春日山、御蓋山の三山はそれぞれ異なる植生をまとい、奈良公園の背景として美しく並んでいる。この三山の植生の成り立ちは、社寺の歴史と関わりが大きい。御蓋山のナギ林は8世紀の春日大社創祀の際に献木されたナギが拡がったものと言われており、春日山原始林は841年の狩猟伐木禁止に始まる神域保護が引き継がれてきたものである。若草山は10世紀には禿山であった記録があり、その頃より草地として維持されてきたと考えられる。現在、三山の植生は厳重な保護施策を受けているが、近年、神鹿として保護されてきたシカ(天然記念物)の採食による在来植生の衰退や外来種ナンキンハゼの侵入が問題になっており、その対策が進められている。

新緑の季節、若草山は草の絨毯のごとき姿を浮き立たせ、春日山はイチイガシやシイノキの原始林が淡い新芽を輝かせ、フジの花盛りを過ぎた御蓋山はナギの深い緑を湛えている。この景は、壮大な時の流れを感じさせる、自然と歴史が生み出した希有なランドスケープである。

佐々木宏二 / 株式会社 空間創研