23/4/30掲載

人が「営む」ランドスケープ資産

no.3-9「能勢町の山裾のクリ林」

大阪府能勢町では、約400年間にわたり続く里山の斜面地を利用したクリ栽培が現在もみられる。水田、民家、クリ林、クヌギ林などが一体となって織りなすこの地域固有の里山景観は、訪れる人の心を和ませてくれる。

上田 萌子 / 大阪公立大学

山裾に立地するクリ林が創出する地域固有の里山景観。
当地域では、山裾に分布するクリ林とその背後にあるクヌギ林やスギ・ヒノキ林、クリ林周辺の民家や水田が一体となり、地域固有の里山景観が形成されている。古くは、この地域の人々が生活燃料を得るため裏山でシバや薪を調達する際に、手近に栗の栽培や収穫が行えるよう、民家の周辺にクリの木を植栽してきた。能勢町は、江戸中期の丹波系クリの一品種で、全国的に栽培が行われている「銀寄」という品種の発祥の地でもある。高度経済成長期後、日本各地のクリ林は斜面地での低投入持続的な栽培から平地での集約的栽培へ移行していった。そのような中、当地域では斜面地で行われる伝統的な栽培管理が継続している。クリ栽培で実施される定期的な下草刈りによって明るい草地環境が形成され、クリ林を好んで生息する昆虫類の生息など、豊かな生物多様性が維持されている。クリの花の時期にあたる梅雨頃は、町内でクリの花の独特な匂いが漂うのも当地域の特徴である。

当地域のクリ林は、大都市近郊にありながら、人と自然が共生する伝統的な里山景観を今なお保つ構成要素として、大変貴重なランドスケープ資産といえる。

上田萌子・浦 裕和(2019):大阪府能勢町におけるクリ林の分布と管理実態に関する研究:環境情報科学論文集33,169-174