21/9/15掲載

人が「愛でる」ランドスケープ資産

no.2-2「大中の湖干拓地」

道路や水路の先端79 ヶ所の堤防上の視点場から、最長で3kmを超える広大な軸線景観を、周囲の山並みとともに楽しむことが可能である。さらに、フランス式庭園で錯視効果をもたらすとされる土地の中折れ(勾配の変化)も認められる。

村上 修一 / 滋賀県立大学

1967年に造成された面積1145haの干拓地。周囲の堤防より低い平坦な土地に、圃場、排水路、道路、用水路が格子状のパターンを形成している。琵琶湖の沿岸には数多くの内湖(浜堤や砂州で湖と隔てられた水深1~2mの潟湖)がかつて存在したが、その8割以上が干拓により陸域化した。干拓で築かれた承水溝の堤防法面によって囲まれた広大な低地が、消失した最大の内湖の痕跡をとどめている。農地に対する社会的要請が干拓地造成当時から変わり、畑地や畜産施設用地が水田の中に混在するようになり、非農用地への転用も認められるなど、土地利用の変化が進んでいる。

道路や水路という直線状の要素が景観の軸線を成し、軸線の両側に圃場が並ぶ、という特徴的な景観が、堤防上より眺望される、という観賞価値が認められる。その価値は社会的にほとんど認知されておらず、今後の土地利用の変化によって失われる可能性がある。

西村成貴,村上修一,轟慎一(2019)軸線の見通しから評価した大中の湖干拓地における景観構成の特徴:ランドスケープ研究82(5):593-598