時と共に変貌していき、その時々の姿が現在の景観に重層的にみられる京都御苑において、変わらず受け継がれてきた御苑の「原型」を今に伝える景観である。建礼門前大通りを筆頭に、大苑路の圧倒的な眺めを楽しむと共に、周囲の細苑路を思い思いに逍遥し、そのコントラストを味わって欲しい。
井原 縁 / 奈良県立大学
京都御所建礼門に向かって南北に整然と延びる砂利敷の大苑路と、その周囲において対照的に緩やかな曲線を描く細苑路の景観である。約36mの広幅員の大苑路の両側は、高木のマツと芝生地がシンプルに配植され、御所建礼門へのヴィスタが強調された独特の趣ある景観が構築されている。一方、その周囲に走る細苑路の両側は、刈り込まれた低い生垣が連なり、樹林地と柔らかに調和し、樹間を縫って逍遥するシークエンス景観を楽しむことができる。
京都御苑は、御所を中心に形成された近世の公家町が基盤となっている。明治10年に始まる大内保存事業により「御苑」として整備されることとなり、さらに大正2~3年の大改造で、現在の京都御苑の原型が形づくられた。とりわけ大改造時には、建礼門前大通りは造成時よりさらに拡大されて砂利が敷き込まれ、縁石や側溝の設置により輪郭が明瞭となった。周囲には対照的に人々の逍遥を意図した緩やかな曲線を描く細苑路が新設された。加えて、剛と柔が調和した荘厳な風致景観の向上を意図した植栽整備により、現在の趣ある独特の景観が創出された。
京都御苑はその時々の社会的要求に呼応し変貌してきたが、建礼門前大通り一帯の風致景観は、御苑を象徴する景観として変わらず継承されてきた。また、一見目立たないが、この大苑路と対となって周囲を走る細苑路の景観も、この大通りと共に連綿と継承されてきた、御苑の基盤となる景観である。